「ジョブ型人事制度」とは?人事戦略や採用活動への影響を探る

著者 Robert Half on 2023 年 9 月 15 日
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昨今、働き方や労働環境が多様化する中、従業員を特定の仕事やポジションに基づいて雇用する「ジョブ型人事制度」が、注目を集めています。本ブログでは、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」人事制度の違いを深堀りし、人事戦略や採用活動に及ぼす影響を考察します。


ジョブ型人事制度とは?「メンバーシップ型」との違い

「ジョブ型人事制度」とは、職務内容(ジョブ)を明確にし、その職務にふさわしいスキルや経験を持つ人材を採用する手法です。仕事に適した人材を見つけることを重視し、職務の明確な定義と成果主義を重視している点が特徴です。

従来、日本企業では、「メンバーシップ型人事制度」が一般的で、人材を先行して採用し、職務や役割に柔軟に適応させるアプローチをとっていました。しかし、少子高齢化による人手不足やグローバル化が進む中で、スキルや職務を重視した「ジョブ型人事制度」が注目を集めています。以下では、それぞれの特徴と違いを詳しく紹介します。
 

ジョブ型人事制度

  • 職務優先:ジョブ型人事制度制度では、各職務や役割が明確に定義されたジョブディスクリプション(職務記述書)をもとに、採用が行われます。特定の仕事に対して、人が雇用されるアプローチのため、その仕事の責任と報酬が詳細に規定されています。

  • 成果主義:従業員の評価は年齢・勤続年数ではなく、職務や役割の遂行に基づいて行われます。つまり、成果と貢献が評価の中心となります。

  • スペシャリストの育成:ジョブ型人事制度制度は、職に対して人をつけるアプローチです。基本的には、ジョブディスクリプションに記載された職務内容の中で、キャリアを積んでいくため、スペシャリストの育成に向いています。

     

メンバーシップ型人事制度

  • 採用優先:メンバーシップ型人事制度では、まず従業員を採用し、その後にジョブローテーションや異動を通じて異なる職務に配置転換されます。人材に対して、仕事が割り当てられます。
  • 勤続年数を重視:評価基準や昇給のタイミングは、勤続年数に基づいて定められている傾向があります。
  • ゼネラリストの育成:メンバーシップ型人事制度は、人に対して職をつけるアプローチです。定期的なジョブローテーションを通して、様々な職務を経験しながら、人材を育成するため、ゼネラリストを育成するのに向いています。

 


ジョブ型人事制度が注目を集めている理由とは?

労働環境が急速に変化し、従来の雇用制度に疑問符が付けられる中、「ジョブ型人事制度」が広く普及し始めています。この急速な変化の背景には、いくつかの重要な要因が影響しています。

  • 終身雇用の見直し:かつて日本の経済は急成長期にあり、終身雇用や年功序列賃金といった制度がうまく機能していました。しかし、少子高齢化による人手不足は深刻化する今、大量の人材を長期的に雇用する終身雇用制度の持続が困難となり、即戦力を求めるジョブ型雇用の需要が広まってきていると考えられます。
     
  • 専門スキルの不足:日本の現在の労働市場では、テクノロジー分野などで高度な専門スキルを持つ人材が極めて不足していています。経済産業省の調べによると、2030年には、40~80万人ものIT人材が不足すると見込まれており、急速なDXに対応するための、専門的なスキルや経験を持つ人材の需要がますます増えています。このような専門スキルを持つ人材の不足も、ジョブ型人事制度制度の導入を後押ししている要因のひとつです。
     
  • グローバル競争力の低下:スイスのビジネススクールIMDによる「世界人材ランキング(2023年)」では、日本の人材競争力は、主な63カ国・地域中、43位という過去最低である結果となり、日本の人材競争力は国際的に見て低下していると言えます。そのような背景を踏まえ、急速にグローバル化が進む中で、国際的な競争力を高めるためには、IT人材をはじめとした高い専門性やスキルを備え持った実力のある人材の確保が欠かせません。こうしたトレンドもジョブ型人事制度制度の導入が求められている理由の一因となっています。
     
  • リモートワークの普及: 新型コロナウイルス感染症拡大の影響でリモートワークが一般化したことで、個々の仕事の過程が見えづらい環境において、従来の人事評価の維持が難しくなりました。そのため、従業員の評価を仕事の成果をもとに評価する必要性が高まったことも、ジョブ型人事制度制度の需要の高まりを後押ししています。

 


ジョブ型人事制度のメリット・デメリット

ジョブ型人事制度は多くのメリットがある一方、いくつかの課題も明らかになっています。ここでは、ジョブ型人事制度のメリット・デメリットについて詳しく説明します。

メリット

  • スキルのある人材の採用:ジョブ型人事制度制度は、採用プロセスにおいて特に優れたメリットがあります。企業は求人時にジョブディスクリプションを提供し、求めるスキルや職務内容を明確に示すため、応募者も自身の適性と業務内容を理解した上で入社を検討できます。これにより、双方の適切なマッチングが容易になり、即戦力となる人材を獲得しやすくなります。
     
  • 生産性の向上、費用対効果:ジョブ型人事制度制度は、業務の効率化にも貢献します。ジョブディスクリプションに基づいて従業員が配置され、業務分担が明確化されるため、無駄な重複作業や不要な業務が減少します。これにより、生産性が向上し、結果として人件費の削減にもつながります。さらに、年功序列に基づく給与体系と異なり、成果に応じた評価が行われるため、給与の公平性も高まります。
     
  • 入社後のミスマッチの防止:ジョブ型人事制度制度は、雇用契約時にジョブディスクリプションによって職務内容、権限、責任範囲、勤務地などが明確に定義されます。応募者はこれらの情報を事前に確認し、同意の上で入社するため、入社後のミスマッチが発生しにくくなります。従業員と会社の期待が一致することで、離職率の低下や職場の満足度向上に寄与します。

デメリット

  • 職務内容に適合する人材発掘の難しさ:ジョブ型人事制度制度においては、求める職務内容に適した人材を見つけることが困難なケースも発生しています。ジョブディスクリプションにより、業務範囲が明確に制限されるため、応募者数が減少する可能性もあります。特に専門性の高い人材の採用には、苦労を伴うことがあるでしょう。専門性を求める場合は、人材紹介会社などのプロの支援を活用することが有効です。
     
  • 他部門への人材異動の難しさ:ジョブ型人事制度制度では、ジョブディスクリプションに明示された職務・役割を担当することが原則となっていることから、他部門への柔軟な配置転換が難しい傾向があります。そのため、欠員が出た場合は、社内で社員を異動させるのではなく、新しく採用をする必要があります。
     
  • 他社への転職率の増加:ジョブ型人事制度は終身雇用制度と異なり、従業員がスキルを向上させた後、より良い条件を求めて他の企業に転職する可能性が高まります。企業は、競合他社に負けない給与や福利厚生、魅力的な企業文化を提供し、優秀な人材を定着させる必要があります。
     

ジョブ型人事制度を導入するためのステップ

ジョブ型人事制度を導入する際には、以下のステップを検討し、効果的な実施計画を策定することが重要です。

  • 適用範囲の決定:最初に、ジョブ型人事制度制度の適用範囲を決定する必要があります。この制度は日本の従来の雇用システムとは根本的に異なるため、すべてのメンバーを一度に切り替えるのは難しいケースも多々あります。一般社員と管理職など異なる職種や階層で、ハイブリッド型の人事制度を検討すると良いでしょう。
     
  • ジョブディスクリプションの作成:ジョブ型人事制度制度では、ジョブディスクリプションの作成が非常に重要です。ジョブディスクリプションには、ポジション名、所属部署、責任や権限の範囲、職務の目的、具体的な職務内容や範囲、必須の能力や資格、歓迎される能力や資格、給与や待遇などを明確にしましょう。人事部門と現場社員との協力を得て、明確で一致したジョブディスクリプションを作成することが重要です。
     
  • 給与・評価制度の見直し:ジョブ型人事制度制度に移行する際には、給与体系や評価制度の見直しが必要です。年功序列制度から、スキルに基づく明確な評価基準を設けましょう。また、市場調査を行い、市場価値に合致した報酬額を設定して競争力を維持しましょう。

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  • 教育とコミュニケーション:ジョブ型人事制度制度の導入に際しては、従業員への適切な教育とコミュニケーションが不可欠です。従業員に制度の詳細を説明し、変更点やメリットを共有することで、スムーズな移行が可能となります。また、従業員からのフィードバックを受け入れ、制度の改善に取り組む姿勢も大切です。
     
  • モニタリングと改善:ジョブ型人事制度制度の導入後は、効果をモニタリングし、必要に応じて改善を行いましょう。従業員の満足度や生産性の向上、給与体系の適正性などを定期的に評価し、制度を最適化していくことが不可欠です。

    ジョブ型人事制度制度の導入は企業にとって大きな変革となりますが、適切なステップと計画に基づいて実施することで、効果的な人事制度の構築を実現することができるでしょう。
     


まとめ

ジョブ型人事制度制度は、労働市場の変化に適応し、競争力を高める手段として注目されています。企業は柔軟性と効率性を両立させ、従業員のスキルとモチベーションを引き出すために、この新しいアプローチを検討する価値があります。

ロバート・ハーフでは、高い専門性をもった優秀な人材の採用をサポートしています。採用をご検討の方は、是非、お気軽にお問い合わせください。

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